転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


6 初めての魔法はうれしいよね



 魔力操作の仕方だけど、さっきまでのやり取りの中で、僕はある事に気が付いた。
 そうだよ、解らないなら調べればいいんじゃないか!

「キャリーナねえちゃん、としょかんいこ!」

「なんで? わたしルディーンとちがって、ごほん、よめないよ?」

 変わり者の僕と違って、村の人たちは町へ行くようになって必要に迫られるまで文字を覚えようとしない。
 そしてそんな年長者たちを見て育った子供たちが小さい頃から文字を覚えるなんて事は当然なく、うちの兄弟たちも最年長のヒルダ姉ちゃんが少しだけ読めるくらいで他は全員まったく字が読めなかった。

「としょかんにあるえらいひとがかいたまほうのほんに、まりょくのつかいかたがかいてあうの。ぼくはすぐできたからよくおぼえてないけど、ねえちゃんのれんしうのしかた、よめばわかうはずだよ」

「そっか! えらいひとのほんがあったね」

 僕の場合、初めから魔力を循環させる事ができたから魔法の書かれた本を読んだ時も魔力操作のページは飛ばして、その後の色々な魔法について書かれているページを読んだんだ。
 だから具体的にどう練習するかは知らないけど、練習の仕方が載っているという事だけはわざわざ飛ばしたくらいだから当然知っていた。

「だから、いこ!」

「うん!」

 僕たちは二人で手をつないで集会所にある図書館へと向かった。

「こんにちわ!」

「おっ、ルディーン。また本を読みに来たのか? ん、今日はキャリーナちゃんも一緒なのか、珍しいな」

 僕とお姉ちゃんが図書館に入ると司書のおじさんがいつものように迎え入れてくれて、それから司書テーブルの横にある箱の中を何やらごそごそと探し始めた。
 それは彼が新しく本を仕入れた時に常連が来ると必ずやるしぐさであり、僕の前でやり始めたと言う事は、出てくるのはまず間違いなく冒険のお話の本だ。

「そうだ丁度よかった、前からお前が読みたがっていた勇者の本がやっと手に入ったぞ。読むだろ?」

「わぁ、ゆうちゃのものがたり、かえたの? だいにんきでかえないっていってたのに」

 この世界には昔、勇者と言われる人がいたらしくて、その人の話は本になったり演劇になったりしているんだって。
 でもそのどちらも大人気らしくて、特に勇者の本は何種類も出ているらしいんだけど印刷技術なんて無いこの世界では本はすべて手書きだから、お金があっても買えるものじゃないらしいんだ。

 冒険者のお話でさえ大興奮で読む僕をいつも見ている司書のおじさんは、勇者の物語を読めばもっと喜ぶだろうって言って、もし町に行った時に偶然入荷していたら必ず買ってきてくれるって前から約束をしてくれていたんだけど、今まではいつも売り切れで買えなかったんだ。

 それがついに入荷した! と言う事で当然すぐにでも読みたいんだけど。

「きょうはいい。おねちゃんとまほうのごほんをよみにきたんだから」

「そうなのか? それじゃあ今日はお預けだな。でもまぁ、この村で文字が読める子供はお前だけだし、この本は子供向けだから大人は借りてまで読まないだろうから時間がある時にでも読むといいよ。面白いぞぉ」

「うん、たのしみ!」

 図書館に入荷した以上いつでも読めるんだし、楽しみは後に取っておくとしよう。

「ルディーン、いいの?」

「うん! おねえちゃんがまほうできるようになれば、いっしょにれんしうできうもん。そのほうがだいじだよ」

 そう言うと僕はお姉ちゃんの手を取って、魔法の本が並んでいる場所へと移動した。
 本棚は5段くらいになっていて高い所にある本は司書のおじさんに頼まないと取る事ができないけど、魔法関連の本を読むのなんてこの村では僕と司祭のおじいちゃんくらいだし、その中でも入門書的なものは司祭様は読まないから一番下の棚に並んでいるから僕でも簡単に取る事ができた。

「おねえちゃん、つくえでよも」

「うん」

 そしてその本を持って椅子とテーブルが並んでいる場所へ移動。
 僕は椅子によじ登ると、テーブルの上に本を置いて、ページを開いた。

「まりょくのつかいかたは……あった!」

 それは結構なページを割いて書かれていた。
 と言う事はそれだけ難しいと言う事なんだろうね。

「へぇ、ひとりでおぼえようとすうと、たいへんなんだね」

「たいへんなの? ルディーン、やっぱりわたしじゃできない?」

「だいじょうぶ! おしえうひとがいたら、かんたんみたい」

 そう、この魔力を循環させる方法と言うのは一人でやろうとするととても難しいけど、誰か教えてくれる人がいれば結構簡単に身に付けることが出来るみたいなんだ。

 と言うのも、一人でやる場合は魔力がどんなものか解らないから、それを認識する所から始めないといけないんだけど、それが大人でもけっこう難しいらしい。
 普段意識していないものだから、人によっては何年かかっても魔力を体の中に感じる事ができない人もいるんだって。
 そういう人は大きな街ならお金を払えば教えてくれるところがあるから、行って教えを請いましょうって本には書いてあった。

「そうなんだ。ならルディーンがいるからだいじょうぶだね」

「うん、ぼくにまかせて!」

 そう言って胸を叩いた後、僕は魔法の本を読んでいく。

「えっと、まずは……それから……うん、わかった」

「わかったの? ならはやく、はやく」

 僕の様子を見て我慢しきれないのか、体をゆすりながらせかすキャリーナ姉ちゃん。
 そんなお姉ちゃんを一旦僕はなだめてから、今読んだ事を実践してみる。

 魔力操作を覚えるのにはまず魔力がどんなものか教えなければいけないんだけど、それは実際に体験させてみるのが一番なんだって。
 その為にはまず教える役である僕は右の手の平に魔力を集めた。

「おねえちゃん、おててにぎうね」

「うん、いいよ」

 お姉ちゃんの左手をその右手で握り、もう片方の手も同じ様に握った。

「ルディーンのみぎて、あったかい。なんで?」

「まりょくだよ。これおぼくがうごかしておねえちゃんのなか、とおすね」

 そう言うと、僕はゆっくりと右手の魔力をキャリーナ姉ちゃんの左手に移して行く。
 そしてそれを更に動かして体の中を通し、僕の左手へ。
 その左手に戻った魔力を更に僕の体を通して、またお姉ちゃんの体へと戻した。

 要は手をつないで、そこを循環させた訳だ。

「なんだこれ? おもしろぉい」

「これがまりょくだよ。おなじものがおねえちゃんのなかにもあうこと、わかう?」

「ん〜、なんとなく」

 キャリーナ姉ちゃんは目を瞑って小首を傾げた後、自分の中に同じようなものがあることを認識して頷いた。
 うん、なんとなくでもそれが解ればもう大丈夫。
 後はそれを動かせるようになればいいだけだから。

「なら、みぎのおててにそのまりょく、あつめられう?」

「う〜ん、わかんないけど、やってみる」

 キャリーナ姉ちゃんは、うんうん言いながら魔力の移動を試みる。
 するとかなりゆっくりとではあったけど、少しずつお姉ちゃんの右手が温かくなってきた。
 魔力が集まってきた証拠だ。

「うん、あつまったね。じゃあこんどはそのまりょくおぼくがうごかすから、どうなってるかおぼえてね。あっ、じぶんでうごかそうとしちゃだめ。ぼくがうごかせなくなっちゃう」

「うん」

 今は魔力を循環させたおかげでキャリーナ姉ちゃんの魔力も動かせるようになっているけど、それはお姉ちゃんが動かそうとしてないからだ。
 本人が自分で少しでも動かそうとしたら、他の人の干渉を一切受け付けなくなってしまうから僕がどう頑張っても動かせなくなっちゃうんだよね。

 ちゃんと説明したおかげでお姉ちゃんの抵抗がなくなったから、僕はゆっくりと魔力を動かして行く。
 そして3回ほど循環させたあと。

「おねえちゃん、わかった? こんどはおねえちゃんがやってみて」

「えっと、こうかな?」

 きちんと自分の魔力がどう動いていたのか理解していたんだろう。
 キャリーナ姉ちゃんはゆっくりとだけど、着実に魔力を動かして僕とお姉ちゃんの間を循環させている。
 うん、これができるようになれば後は簡単だ。
 だって、人の体を通すよりも、自分の体を通す方が簡単なんだから。

「おねえちゃん。これでまりょくおうごかすのはできるようになったね。じゃあ、こんどはそのまりょくお、からだぜんたいにひろげて。それができたら、まほうがつかえうから」

「うん、がんばる! むむむむむむっ」

 キャリーナ姉ちゃんは、何やら力むような感じで体に魔力を循環させて行く。
 実の所、魔力の循環に力は関係ないんだけど、今はやりやすい方法でやるのが一番だろう。
 そしてかなりの時間をかけて体全体に魔力が循環したのがつないだ手の平から僕にも伝わってきた。
 と言う訳でいよいよ実践だ。

 僕は左手で掴んでいたキャリーナ姉ちゃんの右手を離し。

「これでじゅんび、できたよ。みぎのひとさしゆびのさきにむかって、らいとっていってまほうをかけて」

「うん。……らいと。っ!?」

 するとキャリーナ姉ちゃんの右人差し指がぼぉっと光りだした。
 その光は僕のそれよりも少しだけ明るく、だけど、ろうそくの光に比べて暗かった。

「やった、ひかった! わたしもまほう、つかえた!」

 その程度の光でも、その場で両手をあげて喜ぶキャリーナ姉ちゃん。
 そしてその騒ぎを聞きつけて、何事が起こったのかと飛んでくる司書のおじさん。
 そんな光景を見て、僕も胸の中がほっこりとして、とても幸せな気分になるのだった。

 ところでさ……やっぱり魔力の循環って、簡単に習得できるんだね。


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